尿失禁
「尿失禁」とは、いわゆる尿もれのことです。中年以降に多い症状です。お腹に圧力がかかったときに少し漏れたりしたご経験は、少なからずあるのではないでしょうか。症状が悪化しても、恥ずかしくて、周囲に相談ず年齢のせいだと諦めていらっしゃる方も多いかと思います。「尿失禁」の種類や程度により、治療法は様々です。尿失禁は生命に直接影響するわけではありませんが、いわゆる生活の質を低下させてしまう病気です。困ったなと思ったら恥ずかしがったり、年齢のせいとあきらめたりせずに、ぜひご相談下さい。
一言に「尿失禁」と言っても様々なタイプが有ります。代表的なものを紹介します。
- 「 腹圧性尿失禁」
重い荷物を持ち上げた時、走った時、咳やくしゃみをした時など、お腹に力が入った時に尿が漏れてしまうのが腹圧性尿失禁です。女性の4割を超える2千万人が悩まされているといわれています。骨盤底筋群という尿道括約筋を含む骨盤底の筋肉が緩むために起こり、加齢や出産を契機に出現します。軽症の場合は骨盤底筋体操という、いわゆる骨盤の筋トレで軽快します。重症の場合は手術の適応となります。メッシュのテープを尿道の下に通してぐらつく尿道を支える「TOT手術」は、体への負担が少なく成績も優れています。健康的な方であれば1週間程度の入院で、翌週から日常生活に復帰できます。
腹圧性尿失禁について軽症か重症かの判定には、パッドテストを行います。このテストは自宅で行なうことができます。
用意するものは、市販されている尿漏れパッド、飲料水500ml、計りです。
まず、最初の尿漏れパッドの重さを測定し着用します。
① 500mlの水を飲み、15分間安静にします。
② 階段の上り下りを1階分行なってから、30分間ほどの歩行を行ないます。
③ 1.椅子に座る→立ち上がる動作(10回)、2.強く咳き込む(10回)、3.同じ場所で走り回る(1分間)、4.床のものを、腰をかがめて拾う動作(5回)、5.流水で手を洗う(1分間)の5つの動作を行ないます。
尿漏れパッドを外して重さを量り、最初に量った重さを引くと、漏れた量がわかります。
判定基準は以下の通りです。
2.0グラム以下…正常
2.1~5.0グラム…軽度 の尿漏れ
5.1~10.0グラム…中程度 の尿漏れ
10.1グラム以上…重度 の尿漏れ
パッドテストの結果が、中程度以上の場合は受診をお勧めしますが、それ以下の場合でも日常生活に支障が出ているようであればお気軽にご相談ください。 - 「切迫性尿失禁」
急に尿がしたくなり(尿意切迫感)、我慢できずに漏れてしまうのが切迫性尿失禁です。過活動膀胱の症状の一部です。トイレが近くなったり、トイレにかけ込むようなことが起きたりしますので、外出中や乗り物に乗っている時などに大変困ります。本来は脳からの指令で排尿はコントロールされていますが、脳血管障害などによりそのコントロールがうまくいかなくなった時などに発症します。多くの場合、特に原因がないのに膀胱が勝手に収縮してしまい、切迫性尿失禁をきたしています。男性では前立腺肥大症、女性では膀胱瘤や子宮脱などの骨盤臓器脱も切迫性尿失禁の原因になります。原因となっている疾患の治療および、内服薬を使用しある程度コントロールできます。
切迫性尿失禁の場合は「尿をしたい」と思っているのに直前で漏らしてしまうもどかしさがあり、しかも大量に漏らしてしまうこともあることから、周りへの羞恥心や自責の念も強くなることがあります。放っておくと人間関係にも大きな支障をきたすことがある、辛い症状です。
切迫性尿失禁の治療は、その原因となっている疾病が治癒すれば多くの場合は尿失禁も改善されます。改善されない場合や原因がはっきりしない場合には薬物療法等によって排尿をコントロールすることになります。飲水調整、骨盤底筋訓練などの行動療法と内服治療が有効です。 - 「溢流性(いつりゅうせい)尿失禁」
自分で尿を出したいのに出せない、でも尿が少しずつ漏れ出てしまうのが溢流性尿失禁です。この溢流性尿失禁では、尿が出にくくなる排尿障害が必ず前提にあります。排尿障害を起こす代表的な疾患に、前立腺肥大症がありますので、溢流性尿失禁は男性に多くみられます。ほかに、直腸がんや子宮がんの手術後などに膀胱周囲の神経の機能が低下してしまっている場合にもみられます。
お腹が張って尿が漏れだしてきてしまう症状がある方は、直ちに泌尿器科を受診してください。 - 「機能性尿失禁」
排尿機能は正常にもかかわらず、身体運動機能の低下や認知症が原因でおこる尿失禁です。たとえば、歩行障害のためにトイレまで間に合わない、あるいは認知症のためにトイレで排尿できない、といったケースです。この尿失禁の治療は、介護や生活環境の見直しを含めて、取り組んでいく必要があります。
検査
尿失禁に対しては、まず問診と診察をおこないます。排尿日誌を数日間つけてもらうことで排尿状態や尿失禁の程度がわかります。ほとんどの場合、身体に負担のない検査で診断できます。必要に応じて、内診台での診察、膀胱尿道造影検査、膀胱鏡検査などの詳しい検査を行うこともあります。原因を特定するために脳や脊髄の画像検査を行うこともあります。
尿失禁の検査
・尿検査:尿の成分を調べ、尿路感染症の有無などを調べます。
・排尿日誌:ご自宅での排尿の状況を確認するために24時間の尿の日誌を記録していただきます。
・内診台での診察:咳をしたりお腹に力を入れて力んだりしていただき、尿道の動きや尿の漏れ具合のほか、臓器脱の有無を確認します。
・膀胱鏡検査:尿道や膀胱の中を内視鏡で観察します。
手術治療
女性の骨盤の底には、子どもを生むために産道という大きな穴が空いています。この穴をふさぐようにして骨盤底筋群という筋肉がハンモック状に張られていて、骨盤内の臓器(膀胱、子宮、直腸)が落ちないように支えています。
出産や加齢によって骨盤底筋群が緩むと、尿や便が漏れ(排尿・排便障害)、さらに、支えを失った骨盤内臓器が産道、つまり膣をめがけて落ちてくることがあります。これが子宮脱などの骨盤臓器脱(性器脱)です。
<頻度>経膣分娩を経験した女性の約3割程度
<検査>超音波検査(残尿測定)、台上診察、検尿、膀胱造影検査を外来で行います。
<治療>骨盤底筋体操・薬物療法などの保存的治療、手術(尿道スリング手術・腹腔鏡下仙骨腟固定術)などがあります。
尿失禁の種類や程度により、治療法は様々です。尿失禁は生命に直接影響するわけではありませんが、いわゆる生活の質を低下させてしまう病気です。困ったなと思ったら恥ずかしがったり、年齢のせいとあきらめたりせずに、どうぞ当院にご相談下さい。