妊娠糖尿病
「妊娠糖尿病」とは,妊娠中にはじめて発見された糖代謝異常です.なお、妊娠前から既に「糖尿病」と診断されている場合や,妊娠中に明らかな「糖尿病」と診断された場合は「妊娠糖尿病」には含めませんが,これらは「妊娠糖尿病」より重度の状態ですので,血糖をより厳密に管理する必要があります.また妊娠前に糖尿病と診断されている場合は,血糖を十分に管理し,「糖尿病」の合併症(網膜症や腎症)がある場合,その状態の評価を行った上で計画的に妊娠することが,健康な赤ちゃんを産むために非常に大切です。
「妊娠糖尿病」のお母さんが高血糖であると,おなかの中の赤ちゃんも高血糖になり,さまざまな合併症が起こり得ます.
お母さん
妊娠高血圧症候群、羊水量の異常、肩甲難産、網膜症・腎症およびそれらの悪化
赤ちゃん
流産、形態異常、巨大児、心臓の肥大、低血糖、多血症、電解質異常、黄疸、胎児死亡など
強化インスリン療法
血糖の厳重な管理が最も大切で,食前100mg/dl未満,食後2時間120mg/dl未満を目標に管理します.妊娠中は運動療法があまり出来ないため,まず食事療法を行います.食事療法では,お母さんと赤ちゃんがともに健全に妊娠を継続でき,食後の高血糖を起こさず,空腹時のケトン体産生を亢進させないよう配慮します.分割食にしても血糖管理が十分に出来ない場合は,赤ちゃんに悪影響を与えないインスリン注射を用いて管理します.妊娠が進むにつれ,インスリンの使用量が増えますが,ほとんどの場合産後には減量あるいは中止できるので心配しないようにしましょう.
「妊娠糖尿病」と診断された場合の分娩方法
分娩方法は原則として経腟分娩です.帝王切開は産科的な適応がある場合に限られます.帝王切開は通常,お母さんの状態や赤ちゃんの状態が悪化したために急速遂娩(緊急の出産)が必要な場合,胎児が大きく経腟分娩が困難と予測される場合,あるいは網膜症や腎症などの糖尿病合併症が経腟分娩によって悪化する危険性が高い場合に行われています.
ただ,「糖尿病」を持っている妊婦さんでは,帝王切開率が一般妊婦さんの約2〜4倍高いことも事実です.たとえば,「糖尿病」妊婦さんでは,妊娠末期になって赤ちゃんの状態が突然悪くなることがあります.胎児心拍数モニタリング検査を行い,もし異常所見があれば帝王切開になる可能性が高くなります.
当院では「妊娠糖尿病」と診断された妊婦さんには,1週間程度の血糖コントロール目的の入院をお願いしています.退院後には自己血糖測定,食事療法やインスリンの自己注射など,日常生活はこれまで以上に大変になるかもしれません.ただし,血糖コントロールを十分に行った妊婦さんの場合は,元気な赤ちゃんを出産されるケースが非常に多いですので,過度な心配はなさらないで下さい.赤ちゃんの発育や,健常性(元気であるかどうか)をしっかりと評価しながら,適切な分娩時期・分娩方法を担当医師が,しっかりと評価し,分かりやすい言葉でご説明しますので安心して妊娠生活を送ってください.