はじめに
肝胆膵癌は予後不良でかつ手術の難易度が高い、難治癌が多くを占めます。当科では日本肝胆膵外科学会高度技能指導医1名と同専門医1名を中心にしたチームで、「都会と同じレベルの医療」を皆様に提供すべく日々の診療に当たっています。肝胆膵外科癌手術は年間40~50件行っており(表1)、日本肝胆膵外科学会高度技能専門医制度 認定修練施設(B)に認定されています。
肝胆膵外科は手術のみならず、術前と術後の管理も同じくらい大切です。術前においては、適切な術式の決定、耐術能の評価(肝機能の評価、残肝容積の計算など)、適切な減黄処置(黄疸を改善させる)などが必要です。手術においては、安全性を担保しつつ根治を目指した手術を行います。高度進行癌に対しては血管合併切除や他臓器合併切除を伴う手術を行うこともありますし、適応があれば低侵襲手術(腹腔鏡手術)を行っています。術後においては、きめ細かな管理を行っています。肝胆膵外科術後は膵液漏(すいえきろう)や胆汁漏(たんじゅうろう)、肝不全などの特有の合併症があり、それらをいかに適切に迅速にコントロールするかが重要です。当科では周術期死亡ゼロを第一目標に、肝胆膵外科手術に取り組んでいます。
また手術のみならず、術前後の抗癌剤治療にも力を入れています。抗癌剤により切除不可能だった癌が切除可能になる(conversion)こともありますし、切除不可能であっても抗癌剤治療によって予後の延長を目指します。
肝臓
安全な手術を行うために、肝切除前には必ず肝受容体シンチグラフィ(核医学検査)やICG検査(インドシアニングリーンという薬剤を投与して肝臓の排出能力をみる)による肝機能チェックを全例に行っています。また3Dシミュレーションソフトを使用し、残肝容積(手術後に残る肝臓の容積)の計算、最適な肝切除プランニングを行います(図1)。
当科では腹腔鏡下肝切除も行っています。腹腔鏡手術では全身麻酔下に二酸化炭素ガスでお腹をドーム状に膨らませ(気腹)、小さな穴を数個開けてそこから手術器械を挿入して手術を行います(図2)。開腹手術に比べ、傷が小さく術後の回復が早いです。適応があれば、部分切除のみならず葉切除(肝臓を半分とる切除)まで腹腔鏡で手術を行っています(図3、4)。
多くの肝転移は手術ではなく、抗癌剤治療が唯一の治療です。しかし、大腸癌肝転移は切除で予後が延長する(根治も目指せる)と言われています。当科では図5のように大腸癌肝転移の治療方針を詳細に定めて、積極的に肝切除を行っています(図6)。
胆道
胆道癌には、肝内胆管癌(肝内の胆管にできる癌)、肝門部領域胆管癌(肝臓の入口の胆管にできる癌)、胆嚢癌、遠位胆管癌(胆管の下の方にできる癌)、十二指腸乳頭部癌(胆管の出口にできる癌)などがあります(図7)。
特に肝門部領域胆管癌は、癌が発生する場所の複雑性から、拡大肝切除+肝外胆管切除再建が必要で、時には血管合併切除再建も必要となる、肝胆膵外科手術の中でも難易度の非常に高い手術が必要な癌の一つです。当科では肝胆膵外科チームで詳細な術式検討を行い、安全で過不足のない手術を行うように心がけています(図8)。
膵臓
膵癌は、手術のみでは完全に治すことがかなり難しいため、術前後の抗癌剤治療を組み合わせることが重要です。当科では図9のように膵癌の治療方針を詳細に定めて、その治療に取り組んでいます。
膵臓は頭部、体部、尾部に分けられ、その癌の発生部位により膵頭十二指腸切除、膵体尾部切除、膵全摘などの術式を決定します。膵頭十二指腸切除(図10)では、膵頭部・胆管・胆嚢・十二指腸を切除し、時には門脈合併切除や動脈周囲神経叢切除、横行結腸などの他臓器合併切除も行います。切除後は、膵臓と空腸、胆管と空腸、十二指腸と空腸とをそれぞれ吻合し(つなぎ)、再建します。膵体尾部切除では、膵体尾部と脾臓を切除します。当科では膵癌に対しても、可能な限り腹腔鏡下膵体尾部切除を行うようにしています(図11)。
最終更新:2024年3月18日