大腸がんに対する外科手術――開腹手術と腹腔鏡下手術
大腸がんへの手術には、腹部を大きく切開する開腹手術と、腹部に開けた数か所の小さな穴から内視鏡や手術器具をそれぞれ挿入して行う腹腔鏡下手術があります。腫瘍の進展、部位、大きさ、既往症、併存疾患などを総合的に判断して、患者さんにとって、もっとも適切な手術方式を選択します。
当院では腹腔鏡下手術を積極的に取り入れており、約90%以上で腹腔鏡下手術を行っています。
患者さんの体への負担が小さいとされる腹腔鏡下手術では、内視鏡を操作し組織を拡大して見ることができるため、細かい作業が可能であるといった利点があります。
当科では2名の内視鏡外科技術認定医を中心に、安全で合併症の少ない大腸がん腹腔鏡手術の施行を目指します。
結腸がんの手術
結腸がんの手術では、腫瘍だけではなく、がんが広がっている可能性があるリンパ節などの周辺組織および周辺臓器も合わせて切除します。切除後は、残っている腸管同士を縫い合わせてつなぎ(吻合)ます。
具体的には、以下の術式があります。
■結腸右半切除術
■横行結腸切除術
■結腸部分切除術
■S状結腸切除術
直腸がんの手術
直腸は肛門の直上から15cm程度奥の場所にあり、骨盤に囲まれた狭い場所に位置すること、生殖器や泌尿器に関連した自律神経が存在していることなどから、結腸がんの手術に比べると難易度が高いとされています。術式としては以下のものがあります。
■肛門温存
高位前方切除術:直腸の腹膜反転部より上で腸をつなぐ方法。
低位前方切除術:直腸の腹膜反転部より下で腸をつなぐ方法。
超低位前方切除術:下部直腸の腫瘍に対し、肛門から2cm程度直腸を残して切除する方法。
■括約筋間直腸切除術(ISR)
肛門付近にある腫瘍を切除する術式です。肛門の開閉に必要な筋肉のうち内肛門括約筋を一部切除しますが、その外側にある外肛門括約筋の切除は必要ないため、肛門を温存することができます。ただし、内括約筋の一部切除により、肛門機能がある程度低下することは避けられず、排便障害が生じることもあります。
■肛門非温存
腹会陰式直腸切断術(マイルズ手術)
肛門付近にある腫瘍を切除します。直腸と合わせて肛門も切除し肛門部を縫合するため、永久人工肛門(ストーマ)が必要となります。
大腸がん手術の合併症
大腸がん手術に伴う合併症の種類は様々で、出血、縫合不全、吻合部狭窄、膿瘍、腸閉塞、感染症、排便・排尿障害、性機能障害などが挙げられます。手術後に合併症が現れるかどうかは、症状や選択した術式などによっても異なると考えられます。直腸がん手術において縫合不全の合併症が高率となる可能性がある場合、一時的人工肛門(ストーマ)造設術を併施する場合もあります。一時的人工肛門(ストーマ)は、3~6ヶ月後に閉鎖することが多いです。
大腸がんに対する腹腔鏡下手術
腹腔鏡下手術は、カメラや器具を入れるための小さな穴を腹部に数か所開けて行うため開腹手術に比べ創部が小さく、体にかかる負担を抑えることが可能です。
創が小さいことから手術跡の治りも早く、そのため退院までの期間を短く済ますことができます。日常生活に戻るまでの期間を短縮できることはメリットと言えます。そのほか、開腹手術より出血量が少ないことや、術後の腸管運動の回復が早いことなどもメリットとして挙げられます。さらに、大腸の手術による合併症の1つである、腸閉塞を起こす頻度が、開腹手術に比べて少ないという研究報告もあります。
腹腔鏡下手術が困難な大腸がんとは?
1)心肺機能が低下している患者さんには適さない
腹腔鏡下手術では、炭酸ガスを腹腔に注入し、肺や心臓を押し上げて圧迫します。そのため、手術を受ける患者さんの心臓や肺の機能が低下している場合には、腹腔鏡下手術は困難になることがあります。
2)大きいがんやステージ、部位によっては難易度が高いことがある
手術によって取り出せる腫瘍の大きさは、腹部に開けた傷の大きさに依存します。つまり、かなり大きな腫瘍の場合には、その腫瘍を取り出すための切開が必要となり、小さい傷では対応できません。また、がんの発生部位も、腹腔鏡下手術の難易度に影響があります。特に直腸や横行結腸に生じたがんの切除は難易度が高いとされるため、腹腔鏡下手術に習熟した医師が手術を担当することが望ましいとされています。
当科では2名の内視鏡外科技術認定医を中心に、上記の高難度腹腔鏡下大腸手術の担当をしております。また超高難度手術症例においては、関連病院より大腸がん手術のエキスパート医師を招聘し、手術のサポートに当たっていただくこともあります。
大腸がんの化学療法(抗がん剤治療・薬物療法)
当院では大腸癌治療ガイドラインに準じて、術後補助化学療法、切除不能進行再発大腸癌に対する化学療法を行っております。定期的に多職種間の化学療法カンファレンスを行い、患者さん一人一人にあわせた、適切な治療を選択・実施するよう心がけております。
術後補助化学療法
根治切除が得られた症例に対して、再発予防を目的とした術後補助化学療法を行います。がんの最終進行度(ステージ)に応じて3か月間または6か月間の化学療法を施行致します。(CAPOX/カペシタビン療法など)
切除不能進行再発大腸癌に対する化学療法
初回化学療法(1次治療)からまず行い、効果がないもしくは耐性が生じた場合、2次、3次化学療法に移行していきます。CAPOX以外のレジメンは、皮下に埋め込み型中心静脈ポートを留置して行われます。以下に当院で主に施行される治療レジメンを記載いたします。
■一次治療(遺伝子変異・腫瘍局在などを考慮して下記治療レジメンから選択)
FOLFOX+セツキシマブ/パニツムマブ療法(RAS変異なし)
FOLFOX+ベバシズマブ療法
CAPOX+ベバシズマブ療法
FOLFOXIRI+ベバシズマブ療法(BRAF変異あり)
ペンブロリズマブ(MSI high/dMMR)
■2次化学療法(1次治療の無効な場合、下記治療レジメンから選択)
FOLFIRI+ベバシズマブ療法
FOLFIRI+ラムシルマブ療法
FOLFIRI+アフリベルセプト療法
セツキシマブ+ビニメチニブ±エンコラフェニブ(BRAF変異あり)
ペンブロリズマブ/ニボルマブ/ニボルマブ+イピリムマブ(MSI high/dMMR)
■3次化学療法以降(これまでの治療で使われていない薬剤から選択)
パニツムマブ±イリノテカン (1次治療で未使用,RAS変異なし)
トリフルリジン・チピラシル±ベバシズマブ
レゴラフェニブ
ペルツズマブ+トラスツズマブ(HER2陽性)
外来での化学療法
副作用のコントロールが以前より良好となったため、多くの化学療法は外来で可能となっており、より日常生活と治療が両立しやすくなってきています。医師・看護師・薬剤師・栄養士・ソーシャルワーカーなどがチームで患者さんを支えます。
直腸がんの集学的治療
進行した直腸がんに対しては、外科的手術が最も有効です。一方、肛門に近い進行した直腸がんでは、外科的切除後、10%程度の局所再発が起こることが知られています。この局所再発を低下させるために、術前に抗がん剤内服に合わせて放射線療法を行う術前化学放射線療法が欧米では標準治療とされています。また最近では、局所再発の低下のみならず、肝臓や肺などの遠くの臓器への再発率を下げることを目的に、術前化学放射線療法(5週間)に加え術前の全身抗がん剤治療を行う治療法が海外の臨床試験で報告されています(TNT;Total Neoadjuvant Therapy(トータルネオアジュバントセラピー))。
このような、術前化学放射線療法、術前抗がん剤治療、手術を組み合わせて行う集学的治療を行うためには、外科、消化器内科、放射線科、腫瘍内科、薬剤師、看護師が一丸となって治療にあたっていく必要があり、当院でもチーム医療として直腸がんの集学的治療に積極的に取り組んでおり、進行した直腸がんに対しても根治を目指して治療にあたります。
最終更新:2024年3月27日